「AI事業者ガイドライン」の読み方|AIを使う企業が押さえたい要点
経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」は、AIを業務で使う企業も対象に含まれています。開発者・提供者・利用者という3つの立場、共通の指針、利用者として取り組みたいことを、Web担当者向けに整理します。
「AI事業者ガイドライン」という名前を聞くと、AIを開発する大企業やIT企業向けの文書だと思うかもしれません。しかし実際には、AIを業務で使うだけの企業も「AI利用者」として対象に含まれています。Webサイトの制作や運用にAIを取り入れている中小企業にとっても、無関係ではありません。
とはいえ、ガイドラインは本編と別添を合わせると分量が多く、全部を読み込むのは大変です。この記事では、経済産業省と総務省が取りまとめた「AI事業者ガイドライン」を、AIを使う企業(利用者)の立場からどう読めばよいかを整理します。なお、このガイドラインは改訂されることがあるため、実際に参照する際は両省の公式サイトで最新版を確認してください。
AI事業者ガイドラインとは
AI事業者ガイドラインは、経済産業省と総務省が、それまで分かれていた複数のAI関連のガイドラインを統合・整理する形で、2024年4月に第1.0版として公表したものです。その後も、技術や社会の変化に合わせて更新されています。
押さえておきたい特徴は次のとおりです。
- 法律ではなく、事業者の自主的な取り組みを促すための指針(ソフトロー)である
- AIの安全・安心な活用と、イノベーションの促進を両立させることを目指している
- リスクの大きさに応じて対応を考える「リスクベース」の考え方をとっている
- 状況の変化に応じて見直す「リビングドキュメント」として位置づけられている
法的な義務を直接定めるものではありませんが、取引先や顧客がAIへの取り組みを判断する際の目安として参照されることも考えられます。
3つの立場:開発者・提供者・利用者
ガイドラインでは、AIに関わる事業者を大きく3つの立場に分けています。自社がどれに当たるかを最初に確認すると、読むべき箇所が絞れます。
| 立場 | 概要 | Web制作・運用での例 |
|---|---|---|
| AI開発者 | AIのモデルやシステムを開発する事業者 | AIモデルそのものを開発・学習させる企業 |
| AI提供者 | AIを組み込んだシステムやサービスを、他者に提供する事業者 | AI機能を組み込んだチャットボットやツールを顧客に提供する制作会社など |
| AI利用者 | 事業活動の中でAIシステムやサービスを利用する事業者 | 生成AIでサイトの文章や画像を作る企業、AIチャットボットを自社サイトに設置する企業 |
多くの中小企業は「AI利用者」に当たります。ただし、自社サイトにAIチャットボットを組み込んで顧客に使ってもらう場合など、使い方によっては「提供者」としての観点も参考になることがあります。なお、ガイドラインでは、事業活動以外でAIを使う一般の個人(業務外利用者)は、事業者とは区別して扱われています。
共通の指針として示されている考え方
ガイドラインでは、立場にかかわらず取り組むことが期待される「共通の指針」が示されています。主なものは次のとおりです。
- 人間中心:人の尊厳や自律を尊重し、偽情報などへの対策を講じる
- 安全性:生命・身体・財産などに危害を及ぼさないよう配慮する
- 公平性:不当な偏りや差別が生じないよう配慮する
- プライバシー保護:個人情報やプライバシーを尊重し保護する
- セキュリティ確保:不正な操作や情報漏えいなどを防ぐ
- 透明性:AIを使っていることなどについて、合理的な範囲で情報を提供する
- アカウンタビリティ:説明責任を果たせるよう、記録や体制を整える
このほか、教育・リテラシー、公正競争の確保、イノベーションといった観点も挙げられています。一つひとつは抽象的に見えますが、Web担当者の実務に置き換えると、具体的な行動につなげることができます。
利用者としてWeb担当者が取り組みたいこと
共通の指針と、利用者に関する記載の考え方を、Webサイトの制作・運用の場面に当てはめると、次のような取り組みが考えられます。
| 指針の観点 | Web制作・運用での取り組み例 |
|---|---|
| 安全性・人間中心 | AIで作った文章は、公開前に人が事実確認・編集する |
| 公平性 | 生成した画像や文章に、性別・年齢などの偏った表現がないか確認する |
| プライバシー保護 | 顧客の個人情報を、認めていないAIサービスに入力しない |
| セキュリティ確保 | 会社が認めたツール・アカウントで利用し、認証情報を入力しない |
| 透明性 | AIチャットボットであることを利用者に分かるように示す |
| アカウンタビリティ | どのツールで何を作り、誰が確認したかを記録する |
| 教育・リテラシー | 社内でAIの使い方とリスクを共有する機会を設ける |
また、AI利用者には、AI提供者が示す使い方や注意事項に沿って利用することも期待されています。使っているAIサービスの利用規約や利用ガイドを確認し、想定外の使い方をしていないかを見直すことも、取り組みの一つです。
制作会社にサイト制作や運用を依頼している場合は、委託先がAIをどのように使っているかを把握することも、利用者としての責任を果たすうえで役立ちます。例えば、制作会社がAIチャットボットを組み込んで納品する場合、その会社は提供者の立場にもなり得ます。提供者からどのような注意事項や説明を受けているかを確認し、自社の運用ルールに反映させましょう。ガイドラインの観点を、発注時の確認事項として使うのも一つの方法です。
ガイドラインを効率よく読む手順
分量の多い文書なので、目的を絞って読むのがおすすめです。
- 両省の公式サイトで最新版と概要資料を入手する
- まず概要資料で全体像と、開発者・提供者・利用者の区分をつかむ
- 本編のうち、共通の指針と、AI利用者に関する部分を読む
- 別添のチェックリストなど、実務に使えそうな資料に目を通す
- 自社の社内AI利用ルールと照らし合わせ、足りない観点を書き出す
読む際にAIで要約するのも一つの方法ですが、要約には誤りや抜け漏れが含まれる可能性があります。重要な部分は原文で確認しましょう。
まとめ
AI事業者ガイドラインは、AIを業務で使う企業も「AI利用者」として対象にしています。法的な義務を直接定めるものではありませんが、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ、透明性、アカウンタビリティといった観点は、Webサイトの制作・運用でAIを使う際の確認項目としてそのまま役立ちます。
次のステップとして、両省の公式サイトから最新版の概要資料を入手し、自社の社内AI利用ルールと照らし合わせてみてください。個人情報や契約など、法律が関わる部分の対応で判断に迷う場合は、弁護士など専門家に確認することをおすすめします。